第43号(令和2年12月号)
二人の麻薬課長
NPO法人 青葉の樹 理事長 山 本 章
二十世紀末に厚生省(当時)にいた二人の麻薬課長のその後のお話。一人目は藤井基之さん、二人目はその後任の私。
二十一世紀にはいると、藤井さんは参議院議員として大活躍された。麻薬関係でいえば、危険ドラッグ対策に必要な法律改正などに取り組まれた。また麻薬取り締まりの体制強化にも力を尽くされた。さらに国際関係の分野では各国政府に対して薬物乱用防止の警鐘を鳴らすなど、議員ならではの仕事ぶりであった。
しかも、普段の国会質問の機会に必ず薬物乱用問題に触れ、政府関係部局はもとより、広く世間に警鐘を鳴らし続けてこられた、とお見受けしている。
今日我が国の新型コロナウイルス感染症対策が奏功し、各国から賞賛の声が届けられて誇らしい限りだが、薬物乱用防止対策について「奇跡の国」と称賛されていることは、あまり知られていない。
このような成果は、国民の健康志向や順法精神が最大の要因と考えられるが、その大元となる法律や執行機関のタイムリーな整備も見逃せない。
それにつけても、衆参両院710名の議員中、薬物乱用問題について責任をもって議論できる人が藤井議員だけという状況で、同僚議員を説得してこられたご労苦に国民の一人としてまたかつての後任として最大の敬意を表明したい。
一方私はと言うと、退官後財団などを経て現在は障害者の自立支援にあたるNPO法人に身を寄せていて、薬物乱用問題はほとんど関わっていない。
しかし今年に限って言うと、現職当時その設立に関わった「麻薬・覚せい剤乱用防止センター」への応援を兼ねて、「どうする麻薬問題 奇跡の国と言われているが・・・」(薬事日報社)を5月に上梓した。
ちなみに、久しぶりに麻薬関係の資料を読んで気付いた話を一つ。現職当時は知らなかったが、終戦直後麻薬取締法が制定されるに際し、米国の麻薬取締が当時財務省の下で実施されていたことに鑑み、GHQのサムス准将(医師)が公衆衛生行政担当の厚生省傘下に麻薬取締官を置くことを提言。
そんな米国ではかねてから薬物乱用問題が収拾のつかない状態で、しかも昨今はコロナ禍を制御できないでいる。戦争に負けて占領下にあった我が国は、主に米国の言いなりになった部分があったのかもしれないが、「負けるが勝ち」とはこのことか、と考えている次第。
それはともかく、麻薬問題についてご関心の向きは、拙著をお読み頂きたく、この機会にご案内申し上げます。
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