第12号(平成24年1月号)
新幹線通勤 もとゆき会 会員 村上雅弘
新幹線通勤を始めて6年目になります。毎日始発駅から終着駅までの83分間は、それぞれ自分の自由な時間です。新聞を読む人、遣り残した仕事をする人、寝ている人と皆さん自由に過しています。特徴的なのは皆さん一人一人の自由を楽しんでいることです。
毎日通勤していると自然にマイシートが決まってしまいます。1Aの若い男性、4Eの謎多き女性、6Eが私、8Eは毎朝車内で朝食を楽しんでいる紳士、13A、22E, 23Eと約10名弱の通勤者が指定席でもないのにマイシートに座ります。今朝を例に取ると乗車の際2号車のドアの位置に4E謎多き女性と8Eの紳士が並んでいて、始発電車がホームに入って来る頃に、私は列に並びます。ところが謎多き女性は電車がホームに着く10分前から気温氷点下のホームに平然と立って待っています。ドアが開くと皆さんマイシートへ直行し、座るといった具合です。
新幹線の旅は個を楽しむ一人旅と、複数を楽しむ仲間旅があるように思います。家族旅行や、仲のよさそうな三人連れで朝から缶ビールを飲みながら今日これからの旅を楽しんでいる人たちは複数を楽しむ仲間旅派でしょうし、同じ新幹線に乗りながら、一人で今日おりたつ駅で何に出会えるかを楽しみに乗っている個を楽しむ一人旅派もしっかりいて、私はどちらかというと個を楽しむ一人旅派かもしれません。
25年ほど前から会社の出張で、今回の東日本大震災により被災された地域にも、月に2回ほど通っていました。朝、新幹線で仙台まで行き、仙石線に乗って終点の石巻まで、更にバスに乗りかえ、牡鹿半島の先端にある病院を訪問したものです。普通なら何の変哲もない一人旅かもしれませんが、四季折々の景色、訪問先でお会いする優しい先生との会話は忘れることができません。
10月以降の時期には、とれたての生牡蠣を賞味して、その晩は、おばあちゃんの経営する旅館に泊って翌日、気仙沼に向かう。個の旅も結構楽しいものです。10年ほど通って多々お世話になり、私を鍛え、育ててくれたこの地が今回の震災で大きな被害を受けられたことは残念です。早く元に戻られることを祈るばかりです。
個を楽しむ一人旅派の私としては、毎日の通勤が苦痛ではありません。自分でしたいことがしっかり出来る時間で、思えば中学の頃から外の世界を垣間見る楽しみを味わってきた結果かもしれません。複数を楽しむ仲間旅派とは異なり大きな声で話をするわけではないし、車両の中では目立ちませんが、しっかり、ひっそり、自分の時間を楽しんでいます。 |