第25号(平成27年6月号)
良い麻薬
もとゆき会幹事 田村 典朗
麻薬といえば、関連著作も多い藤井先生のまさに得意分野です。
ところで歳を重ねてきますとどこかしら体にほころびが出てきて、まず症状として感じられるもののひとつが“痛み"ではないでしょうか。
日本では“痛み"はがまんすることが美徳であるとする考え方もあるようですが、欧米では薬を使ってコントロールすることがより一般的に行われています。痛みを感じながら生活するよりは、適切に痛みを抑え活発にまた気持ちも晴れやかに生活する方がよいであろうことは容易に想像できます。
現在、日本人の死因の第一位は悪性新生物(がん)であり、特にその痛みは激しいものです。そのために必要となる強力な鎮痛剤の中には麻薬に分類される成分もあり、さらにこれまでになかった成分や剤型が使えるようになってきています。それ自体はとてもよいことです。しかしながら、薬ですので当然副作用もありますし、未だに医療用麻薬を使用すると中毒になる、寿命を縮めるといった誤解を持たれている方が少なからずいらっしゃるようで、今後も国や学会のみならず社会全体での正しい理解の普及が必要です。
一方、麻薬ですから適切な目的以外に使用すれば、大きな社会問題になりかねません。例えば、米国では政府による規制に加え、製薬会社が乱用防止対策を施した製剤を開発するなど様々な対策が行われていますが問題の解決にはなかなか至らないようです。
このような状況を踏まえ、今後日本では医療用麻薬が必要な患者さんの手にきちんと届くようにすることと同時に副作用や乱用といった麻薬の負の面が顕在化しないようにするための管理や規制、それらを支える新しい薬の開発、製剤学的な工夫、ICTの活用などの技術基盤の整備などの絶妙なバランスが求められます。
現在文部科学省で科学技術などを担当されており、厚生労働省でのご経験も豊富な藤井先生には今後とも患者さんへの福音のためにも是非ご活躍いただきたいと思います。麻薬の良い面が正しく理解され、広く私たちの生活の中で活用されることを願っております。
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